始まりは、競売人に届けられた一通の手紙
パリのオークション・ハウスで働く有能な競売人(オークショニア)、アンドレ・マッソンは、エゴン・シーレと思われる絵画の鑑定依頼を受ける。シーレほどの著名な作家の絵画はここ30年程、市場に出ていない。当初は贋作と疑ったアンドレだが、念のため、元妻で相棒のベルティナと共に、絵が見つかったフランス東部の工業都市ミュルーズを訪れる。絵があるのは化学工場で夜勤労働者として働く青年マルタンが父亡き後、母親とふたりで暮らす家だった。現物を見た2人は驚き、笑い出す。それは間違いなくシーレの傑作だったのだ。思いがけなく見つかったエゴン・シーレの絵画を巡って、さまざまな思惑を秘めたドラマが動き出す…
この作品の真の主役はミュルーズ郊外の一軒家で長らく煤にまみれながら、ひっそりと時を過ごしていたエゴン・シーレの「ひまわり」だ。その生涯は30年にも満たず、「夭折の天才」と称されたシーレはウィーン画壇の帝王だったグスタフ・クリムトの弟子とされているが、自分の生年(1890年)がオランダのポスト印象派の巨匠フィンセント・ファン・ゴッホが死去した年と同じだということに運命を感じていたという。クリムトとゴッホはともに「ひまわり」の絵を描いているが、シーレの「ひまわり」がそのふたりの先達に影響を受けていることは想像に難くない。ナチス・ドイツに略奪されたこの「ひまわり」がこの世に姿を現したとき、この絵を通じて、登場人物たちの隠された秘密が明らかになり、人生で本当に手に入れたいものを見つけ出していく。